山桜会より、 「思い出」 「今考えている事」 「こんな研究をしている」といったことに、一言というご依頼を頂戴致しました。
実は、昭和五十九年から、文部省派遣でタイ国にあるバンコク日本人学校に2年間勤務し、帰国した時、最も印象深かったことは、 「日本の常識、世界の非常識」(竹村健一氏)といったことでした。
挨拶一つとっても、日本では頭を下げるほど丁寧で、逆にタイではワイ(合掌)の手を、上にあげるほど丁寧な挨拶ですし、国立図書館などでもトイレには、ペーパーがなく、壺が置かれていて、その中の水で処理するようになっています。
東南アジアの現地で暮らすと言うことは、日本で身に付けた知識や常識を、逆転する必要性があった訳です。
そこで、自分なりに悟ったことは、失敗・挫折・苦境・思い違いなどにぶつかった時、そのマイナス体験がきっかけとなって、今まで理解していなかった世界に気づき、新しい理解が獲得できる、つまり結果的にプラスに逆転するという事実でした。マイナス一×プラス一=マイナス一だが、マイナス一×マイナス一=プラス一になるということでした。
何を、かけるかということ。
帰国後、もう十年以上も前のことですが、これからはマイナス体験を、どう逆転するかが課題になるということで、『マイナス哲学による人材教育法』をまとめました。この小冊子は、わずか二千部印刷しただけで、一般の流通ルートに乗っていなかったのですが、文部省や松下政経塾からも直接注文がありました。
この時に、さまざまな業界の人が、マイナス体験に、どれだけ積極果敢に対処しているかを事例的に取り上げ、調べてみたのですが、経済界では松下電器の松下幸之助氏、阪急の小林一三氏、ダイエーの中内功氏などが、その代表でした。その結果、この観点から、「松下幸之助氏」を道徳副読本(日本文教出版)書く機会を与えられました。
さて、こうした経緯があって、今取り組んでいるのが、「松下幸之助氏の『思い』の技術」です。ちょうど、平成12年に約一ヶ月ほどPHP研究所研究本部で、貴重な保存資料を閲読する機会を与えていただき、直接研究所員の皆様がアドバイスをしてくださったことから、松下幸之助氏の実像に一歩近づくことができました。
そこで、気づかせていただいたことは、単なる思考力でなく、単なる知識でなく、燃えるような「思い」にこそ、松下経営の原点があるということでした。
「畳の上の水練」とか「熱海会議」とか、「水道哲学」とか、よく知られている松下経営の基盤には、「二階に上がろうと強く思う者は、梯子を考え出す」(松下氏)という言葉に象徴される「思い」の哲学が、地下水脈のように流れているのではないでしょうか。
ちょうど、昭和四十年頃、ダム式経営の講演会場で、松下幸之助氏の「まず、思う事ですな」という言葉によって、「思い」の重要性を瞬時に悟られたのが、京セラ創業間もなくの若き経営者稲盛和夫氏だったようです。
「思いは、必ず実現する」
卒業生の皆様が、それぞれの「思い」を大切にされ、その「思い」を実現されることを、大阪城を仰ぐ学舎から、祈念しております。
この詳細につきましては、『松下幸之助氏に学ぶ「思い」の技術』(彩図社・電話03-5985-8213)が出版されますので、ご一読いただければ幸いです。(*卒業生の場合は、1700円(送料込み・約四七〇ページ)で、その旨を明記して、電話・ファックス予約をしてください。)
2002年1月21日
『松下幸之助氏に学ぶ「思い」の技術』
目次
はじめに
一章 「思い」の人生応援歌
松下幸之助氏の「ダム式経営」論
「思い」の「人生応援歌」をキャッチ
「思い」の自然法則への開眼
「思い」の両界曼荼羅の継承・発展
関西発「思い」のルネッサンス
二章 「思い」の経営者の誕生
大晦日のトイレ騒動と「思い」の技術
松下夫妻の家族的経営と「思い」の技術
組織における「思い」の技術
松下幸之助氏の「思い」の技術の発展
三章 京セラと「思い」の技術
入社当時のマイナスからの出発
マイナスからプラスへの転換成功体験
「狂」状態から発明・発見に成功する
稲盛和夫氏の確信的宣言ー「思い」は必ず、実現するー
京セラ設立と「思い」の伝え方での悩み
新入社員の反発と本格的「事業の時代」のスタート
稲盛和夫氏独自の「思い」の方程式
稲盛和夫氏独自の「思い」の段階説
京セラの躍進と「思い」の経営スローガン
四章 「素直な心」と「思い」の技術
「素直な心」への言及と「思い」の技術の誕生
坂本龍馬の「素直な心」
福沢諭吉の「素直な心」
本田宗一郎氏の「素直な心」
フビライの「素直な心」
松下幸之助氏の独立自尊型「素直」観の確立
松下幸之助氏の武士道的「素直」観
松下幸之助氏の私心克服型「素直」観
稲盛和夫氏が継承した私心克服型「素直」観
五章 衆知と「思い」の技術
「素直な心」を貫く衆知経営と「思い」の技術
松下式「衆知」経営と組織的実行力・目的達成力
「衆知」経営の形と大阪城の石垣
戦後民主主義を克服する「衆知」と「思い」を高める技術
「衆知」経営で成功した”熱海会談”と「思い」の技術
衆知によって「思い」は実現していく
六章 水道哲学と「思い」の技術
“錦の御旗”と天理教本部での驚き
大阪通天閣界隈での「水道哲学」のインスピレーション
紀ノ川周辺の少年時代の体験と「水道哲学」
熱き「思い」伝えた創業記念日
「水道哲学」への「思い」と激しい気迫
ホレース・マンの自然法と「水道哲学」
七章 電話・朝会と「思い」の技術
たかが「電話」されど「電話」の松下式電話観
朝一番一斉の「飛耳長目」型電話連絡
元バンコク駐在敏腕記者と一本の電話
会議途中の松下幸之助氏の「電話」攻勢
エジソン流「ハロー」と松下流「どないや」
コンビニエンスストア時代の到来
セブンイレブンの大飛躍の秘訣とは
世界的に有名な松下流「朝会」の開始
なぜ、松下は「朝会記録」を二つ残したか
多重構造的に「物語る」経営者とCIの確立
八章 面授と「思い」の技術
JR名古屋駅ホームでの「面授」
松下幸之助氏の「面授」の方法
各界リーダーの説得力と「面授」
事例研究(1)リンカーンの場合
事例研究(2)クラーク博士の場合
事例研究(3)福沢諭吉の場合
事例研究(4)源義経の場合
事例研究(5)武田信玄の場合
事例研究(6)安岡正篤氏の場合
事例研究(7)政治学者丸山眞男氏の場合
九章 相談的指示と「思い」の技術
「おみこし」型リーダーシップとは
「相談的指示」と「思い」を伝える技術
松下流「相談的指示」と電話のかけ方
なぜ、一夜で墨俣城は完成したか
USJに見る観客参加型娯楽のトレンド
「よさこいソーラン」祭りのトレンド
十章 歴史上の人物と「思い」の技術
エジソン像建立と「思い」の技術
エジソンに学んだ松下幸之助氏
人生は青年時代の一〇、〇〇〇時間が勝負
エジソンの「真夜中のランチ」
松下電器・京セラの「真夜中のランチ」
エジソンは日本ファンだった
探検家ムーアの日本派遣と石清水八幡宮
「リトル・ピープルの声」を聞く
「歴史上の人物」の経営活用と松下幸之助氏
ー後略(全二十二章)-